特集 小片コレクション 縄文時代の人骨

-新潟県内で発掘の代表例-

   縄文時代は約一万年続き、早期、前期、中期、後期、晩期に区分けされます。早期、前期の人骨は全国的に出土数が非常に少ないのですが、小片コレクションには有名な遺跡から出土した保存状態の良好な早期、前期人骨が二十数体含まれます。小片教授が、早前期人を「華奢(きゃしゃ)」、中後晩期人を「頑丈(がんじょう)」と、わかり易い独特の表現で、日本人の起源と形質の変化について論じたのは有名です。以下に、新潟県内で出土した代表的な縄文人骨を紹介します。
藤塚人骨
藤塚人骨
 昭和41年、佐渡市真野新町(旧佐渡郡真野町)藤塚地内、標高20mの段丘での砂取り作業中に縄文中期の貝塚が発見されました。付近では、以前から石器時代の遺物の出土が知られていました。翌年、地元教育委員会、新潟大学第一解剖学教室、立教大学博物学研究室の発掘チームにより、墓坑中に仰臥屈葬の壮年女性一体と散乱人骨22個体が発見されました。数少ない日本海側の縄文貝塚の中にあって藤塚貝塚は規模も大きく、狩猟や漁労が盛んであった当時を伝えるものです。頭蓋は短頭で比較的横に広い顔をもち、眉間とそれに続く眉弓の発達は弱く、下顎骨を含め、全体は「きゃしゃ」な印象があり、下肢の腓骨は「がんじょう」です。身長推定値は 148.7cm。
室谷人骨
 室谷洞窟は新潟県東蒲原郡阿賀町(旧上川村)神谷地内、標高218m、阿賀野川の支流である室谷川の側方浸蝕により形成された洞窟です。数年前に近くの小瀬ヶ沢洞窟から縄文早期の遺物が多数出土していたことから探索の対象となり、昭和35年、同じく長岡市立科学博物館(中村孝三郎氏)が調査を行いました。調査には新潟大学医学部学生も参加していました。発掘を進めたところ人骨が出土し、小片教授も調査に加わることになりました。貴重な縄文前期の壮年または熟年女性他6体の 人骨が発見されたのです。洞窟からは、伊豆諸島の神津島、青森県深浦、長野県霧ヶ峰、栃木県原産の黒曜石も出土し、当時の広い文化圏が示唆されます。土器など の遺物は国の重要文化財に指定されています。
 一体は明らかに屈葬されていました。下顎骨は小型で、上・下肢骨とも細く、「きゃしゃ」です。
発掘中の現場写真発掘中の現場写真。中央に頭蓋骨が見え始めている。左右は石。
現在の室谷洞窟 現在の室谷洞窟。国の史跡に指定されています。
縄文人骨236体の計測値で最大値を示す出現頻度
 小片教授は、多数の人骨を詳細に計測し、年代や地域毎の特徴を示され、ヒトの進化を論じられました。
一施設に多数の古人骨、特に縄文人骨を集積させることに より初めて成し得た研究でもありました。